スプツニ子
11月中旬、彼女が情熱大陸で取り上げられ、12月には彼女の著書が出ましたが、
彼女の事を知っているマジシャンはまだまだ少ないようです。
今回は彼女の著書、『はみだす力 スプツニ子!』をマジシャンの目線で読んでみよう!という記事です。
マジシャンは「社会からはみだした人間」、または「はみだしたい人」がマジックを趣味や仕事にしているように思えます。目立ちたがりや自己承認欲求の強い人、表現したくてたまらない人らが、マジックという道具を手に入れたに過ぎないのです。
社会全体から見れば、マジシャンは「はみだせている」が、マジシャン、マジックの出来る人、というだけであなたの「はみだしたい欲」は満たされているのでしょうか?
マジシャンでなくてもそうです。「人と同じはイヤだ」「普通はイヤだ」つまり「はみでてないのはイヤだ!!」という人はとても多いと思います。「別に私は大多数のなかの一つで良いや」という人もいらっしゃるでしょうが、生活の些細なところにも「はみだしたい欲」は現れていると思います。服装、食事、音楽、小物などなど、どこかで「はみだしたい欲」が顔を出しているはずです。(結果として没個性となっている場合も少なくないですが)
さて、前置きはこのくらいにして早速いってみましょう!
『はみだす力』 スプツニ子!
肌の白い美女がバラに巻かれ(痛そう)、凛々しくポーズをとっている表紙。
日本で有名になったタレントでいえば、リアディゾンやスザンヌに近い顔立ち。
まずは簡単に彼女の事を紹介しましょう。(画像をクリックでサイトに飛びます)
コスプレイヤーではありません。
彼女はテクノロジーとジェンダーを扱うアーティスト。画像は作中の衣装です。
順にタイトルを紹介しましょう。(順に左、中央、右上、右下)
『Sushiborg Yukari (寿司ボーグゆかり)』 日本の幻の伝統「女体盛り」にインスパイア
『生理マシーン、タカシの場合』 女の子になりたいタカシがテクノロジーで生理を体感する
『ムーンウォーク☆マシン、セレナの一歩』 月面に女性の足跡を!と奮起する女の子の話
『カラスボット☆ジェニー』 カラスとコミュニケーションをとろうとする話
彼女の作品の一部です。タイトルをクリックで動画に飛びます。
現代アーティストとして作品を作る傍ら、MIT(マサチューセッツ工科大)の助教をしています。
本の構成は、彼女の生涯(といってもまだ28歳)を時系列になぞり、その節々に「はみだすヒント」が書かれているというもの。そのなかでも印象的な文章を引用しようと思います。
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凛々しい女性ですね。
「観測されないものは存在しないも同じ」という量子力学の3値論理の考え方がある。(中略)「新しいことをやろうと思ってるんだけど、時間がないんだよね!」こう言う人は結局面白い事をしていない。「頭の中ではおもしろいことを考えているけど、言葉で言えないんだよね」こういう人は大抵、面白くない(笑)」
こういう人、周りにいませんか?ここで彼女はそういう人達を批判したいのではなく、「私が昔、有名なアーティストの表現に励まされたのは、それらが有名で私の所に届いたから。届かなければ意味がない!存在しないのと同じ!」ということです。
身内で、この技法パネェ、このアイデアパネェ、とワイワイやるのも悪くないですが、外に出して行きましょう。この業界はどうもアイデアや良いものを秘密にしたがる印象があります。マジック自体が「秘密」を内包しているため、仕方の無い事かもしれませんが、あなたのその凄い技術やアイデア、理論は、隠していては誰もそれを知らない、つまりそれらは存在してないのです。一時的に、戦略的に隠しているならまだしも、ですが。せめて国単位、コミュニティ単位でそれらの情報をシェアし、みんなで高めて行けば日本人が世界大会で表彰台に立つ日も遠くないはずです。(韓国がその手法をとっており、ここ数年の強さはそれが大きな要因の一つでしょう。)
(前略)体力と時間との闘いに挑んで、私は自分の限界を知った一人で出来る事は限られている、と痛感したのだ。 たとえ得意だったり能力的になんとかできたりしても、自分で全部こなそうとしたらダメになってしまう。
「全部一人でやっていたら、やりたいことをやり終える前に、私は死ぬ!!」
大切なのはアイデア、それをかたちにするのは別に一人じゃなくたっていい。
彼女は自主制作のDVDを作る際、プログラミングも出来る、モノも作れる、曲も作れる、絵コンテもかける、字幕も入れれる、とりあえず全部出来る為、すべてを自分でこなそうとしていました。
日本の多くのマジシャンが個人で戦っています。独学だったり、コミュニティに属していなかったりするのが原因でしょう。例えばコンテスト用の手順を作る時も、一人で悩んで、一人ですべて(道具作り、音楽、演技構成)をこなそうとして、中途半端なものが出来上がった、という話は腐る程聞いてきました。また、プロとして活動して行く上で、様々なプロモーションをしなければなりません。名刺を作ったり、サイトを作ったり、イベントをするなら集客もしなければなりませんし、場所も抑えなければなりません。仕事をとるのも自分、値段を交渉するのも自分。これを全て自分でこなしていたら、いつマジックの練習をするのでしょうか?いつ新しいアイデアを練るのでしょうか?いつ恋人とデートするのでしょうか?プロでやっていくとは、そういうことだよ。という意見もあるでしょう。「マジックで生きていく」というだけならそれでも良いかもしれません。しかし、マジシャンとしてやりたい事や表現したいことがあるならそんなことをしている場合ではありません。
彼女はプロに頼めば、自分でやるより早いしクオリティも高いと遅まきながら気付き、そして限りある時間と予算を何に使い、どう使うのか。資本主義を学びました。
(前略)いったんその「型」の全貌がつかめてくると、今度はその型からどうはみだせば面白いことが起きるかが、わかってくる。その型の中でどう遊べるかも考えられる。そうすると、型からはみだしたり、あえて型に入ってみたり、自由自在に「自分のかたち」が作れるようになる。
彼女はMIT(マサチューセッツ工科大)の助教です。しかし普通の助教ではなく、異分子要因として入りました。その中で自分がどう振る舞うべきか考えました。
「型のある人が型を破ることを型破りといい、型のない人が型を破ることを型無しという」
これは中村勘三郎の言葉です。「はみだしたい欲」を満たすには、はみだせば良いわけです。「はみでる」には型を破ればいいのです。しかし、「型」を知らずに破っている人も少なくありません。いわゆる「ただ奇抜なだけ」の型無しパフォーマンスをする人が多いのです。ここ数年で現れた「はみだしてるマジシャン」は間違いなくYann Frischでしょう。彼は古典の原理を利用し、表現を今までにないレベルにまで昇華させました。型を理解していなければあの演技は出来ませんしもちろんFISMグランプリ(世界一)の評価もされません。(彼についてはこちら)
「か」「かた」「かたち」という建築家の理論があります。(詳細はこちら)
ここ数年のインターネットのめざましい発展によりマジックはかなり簡単に学べるようになりました。しかし、それらで学べるのは「かたち」の段階です。まして「かたち」も習得出来ていない、「かた」も無いのに「奇抜な」「個性的な」「独特な」演技をしようするのは無謀ですし、効率が良くありません。
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彼女はSNSの面白い使い方をしています。
とにかく予算がなかった時、取材を受ける事になったけど、美容院にお金が無かったためTwitterで
DVDを買ってください。買ってくれた人にはカットした後のプリクラを入れて送ります
と呼びかけ、10人が買ってくれ25,000円をゲットし、見事、美容院へ行く事が出来たのです。
この例はかなり私的に聞こえるかもしれませんが、撮影を手伝ってくれるスタッフをSNSで集めたり、制作に関わるクリエーターもSNSで呼びかけたりと、色々な面でTwitterを利用しています。
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まとめ
あなたもこの本を読めば、あなたの奥底に眠る「はみだしたい欲」がムラムラとしてくるはずです。
表現したい何かがある人、現状のシステムや自分にどこか物足りなさや束縛感を覚えている人にオススメする一冊です。
非常に読みやすい文章と構成になっているため、時間があればすらすらと読めてしまいますので、ものぐさのあなたにもお勧め。
最後に素のスプツニ子さんの動画を載せておきます。